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夫れ以んみれば 偶十方微塵の三悪の身を脱れて 希に 閻浮日本の爪上の生を受け亦閻浮日域・爪上の生を捨て
て十方微塵・三悪の身を受けんこと疑い無き者なり、然るに生を捨てて悪趣に堕つるの縁・一に非ず或は妻子眷属
の哀憐に依り 或は殺生悪逆の重業に依り 或は国主と成って民衆の歎きを知らざるに依り 或は法の邪正を知らざ
るに依り 或は悪師を信ずるに依る、此の中に於ても 世間の善悪は眼前に在り 愚人も之を弁うべし 仏法の邪正・師
の善悪に於ては 証果の聖人・尚之を知らず 況や末代の凡夫に於ておや。
しかのみならず仏日・西山に隠れ余光・東域を照してより巳来・四依の慧灯は日に減じ三蔵の法流は月に濁る実
教に迷える論師は 真理の月に雲を副え 権経に執する訳者は 実経の珠を砕きて 権経の石と成す、何に況んや震旦の
人師の宗義其の誤り無からんや何に況や日本辺土の末学誤りは多く実は少なき者か、随って其の教を学する人数は
竜鱗よりも多く得道の者は麟角よりも希なり、或は権教に依るが故に或は時機不相応の教に依るが故に或は凡聖
の教を弁えざるが故に 或は権実二教を弁えざるが故に 或は権教を実教と謂うに依るが故に 或は位の高下を知らざ
るが故に、凡夫の習い仏法に就て 生死の業を増すこと 其の縁・一に非ず。
中昔・邪智の上人有って末代の愚人の為に一切の宗義を破して選択集一巻を造る、名を鸞・綽・導の三師に
仮って一代を二門に分かち実経を録して権経に入れ法華真言の直道を閉じて浄土三部の隘路を開く、亦浄土三部の
義にも順ぜずして 権実の謗法を成し永く 四聖の種を断じて阿鼻の底に沈む可き僻見なり、而るに世人之に順うこ
と譬えば 大風の小樹の枝を吹くが如く 門弟此の人を重んずること 天衆の帝釈を敬うに似たり。
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