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       唱 法 華 題 目 抄     文応元年五月 三十九歳御作
                            於鎌倉名越

 る人に問うて云く 世間の道俗どうぞくさせる法華経ほけきょう文羲もんぎわきまえずとも 一部一巻四要品自我偈ようごんじがげ一句等を受持じゅじし 或は 自らもよみかき 若しは人をしてもよみかかせ 或は 我とよみかかざれども経にむかたてまつ合掌礼拝がっしょうらいはいをなし香華こうげ ようし、或は 上の如く行ずる事なき人も の行ずるを見てわづかに随喜ずいきの心ををこし 国中に此の経のひろまれる事を よろこばん、是体これていの僅かの事によりて 世間の罪にも引かれず 彼の功徳くどくに引かれて 小乗の初果しょうかの聖人の度度人天に生れ て 而も悪道にちざるがごとく 常に人天のしょうをうけ 終に法華経を心得るものと成って十方浄土にも往生おうじょうし又此の 土に於ても 即身成仏する事有るべきや 委細いさいに之を聞かん、答えて云く させる文羲もんぎわきまえたる身に あらざれども 法華経・涅槃経・並ねはんぎょうならびに天台妙楽みょうらくの釈の心をもてはかるにかりそめにも法華経を信じて聊かも謗を生ぜざらん人は余 の悪にひかれ 悪道につべしとはおぼえず、ただ悪知識あくちしきと申して わづかに 権教ごんきょうを知れる人 智者のよしをして法華 経を 我等が機にかながたよしやわらげ申さんをまことと思いて 法華経を随喜ずいきせし心を打ち捨て余教へうつりはてて一生さ て法華経へ帰り入らざらん人は 悪道につべき事も有りなん、仰せに付いて 疑はしき事はべり 実にてやはべるらん法 華経に説かれて候とて智者の語らせ給いしは昔三千塵点劫じんでんごう当初そのかみ大通智勝仏だいつうちしょうぶつもうす仏います其の仏の凡夫にて いましける時十六人の王子をはします、彼の父の王仏にならせ給ひて一代聖教しょうきょうを説き給いき十六人の王子も亦 出家しゅっけして其の仏の御弟子とならせ給いけり、大通智勝仏だいつうちしょうぶつ法華経を説きおわらせ給いてじょうらせ給いしかば十六人 の王子の沙弥しゃみ其の前にして かはるがはる法華経を講じ給いけり、其の所説しょせつ聴聞ちょうもんせし人 幾千万といふ事をしらず 当座にさとりをえし人は不退の位に入りにき、又法華経をおろか疎略に心得る結縁の衆もあり其の人人・当座中間ちゅうげん不退ふたい                                        p.一