夫れ 法華経と申すは 八万法蔵の肝心十二部経の骨髄なり、三世の諸仏は この経を師として正覚を成じ 十方の仏 陀は 一乗を眼目がんもくとして 衆生を引導し給ふ・今現に 経蔵に入って此れを見るに 後漢の永平より唐の末に至るまで渡 れる所の 一切経論に二本あり、所謂 旧訳 く　やくの経は五千四十八巻なり、新訳の経は 七千三百九十九巻なり、彼の一切 経は 皆各各・分分に随って我第一なりとなのれり、然而 しかるに 法華経と彼の経経を引き合わせて 之を見るに勝劣天地な り高下雲泥 うんでいなり、彼の経経は衆星の如く 法華経は月の如し 彼の経経は燈炬 とうこ・星月の如く 法華経は大日輪の如し 此 れは総なり。
　別して 経文に入って此れを見奉れば 二十の大事あり、第一第二の大事は三千塵点劫 じんてんごう五百塵点劫と申す 二つの法 門なり、其三千塵点と申すは 第三の巻化城喩品 けじょうゆほんと申す処に出でて候、此の 三千大千世界を抹 まっして塵 ちりとなし 東方に 向って 千の三千大千世界を過ぎて一塵 じんを下くだし 又千の三千大千世界を過ぎて一塵を下し 此くの如く 三千大千世界の 塵を下くだしはてぬ、さて かえって下せる三千大千世界と 下さざる三千大千世界を ともにおしふさ総束ねて 又塵となし、此 の諸の塵を も 以てならべをきて 一塵を一劫こうとして経尽 へつくしては、又始め 又始め かくのごとく上の諸塵の尽し経 へたるを 三千塵点とは申すなり、今三周の声聞と申して 舎利弗しゃりほつ・迦葉かしょう･阿難あ　なん･羅云 ら　うんなんど申す人人は 過去遠遠劫おんのんごう･三千塵点劫 のそのかみ 大通智勝仏だいつうちしょうぶつと申せし仏の 第十六の王子にてをはせし 菩薩ましましき、かの菩薩より 法華経を習いける が 悪縁にす賺かされて 法華経を捨つる心つきにけり、かくして或は華厳経へをち 或は般若はんにゃ経へをち 或は大集経 だいしつきょうへを ち 或は涅槃ねはん経へをち 或は大日経 或は深密経じんみつきょう 或は観経等へをち 或は阿含あごん小乗経へをち なんどしけるほどに 次第に
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　P.一〇七九